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弁護士ブログ

固定残業代(みなし残業代)特別ブログ連載④ 「ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件(札幌高裁平成24年10月19日判決労判1064号37頁)」

2020年10月16日 津島事務所所長 弁護士 加藤耕輔

 固定残業代(みなし残業代)特別ブログ第4回目となります。

 今回は,固定残業代を定めた職務手当の受給に関する合意は,時間外労働が何時間発生したとしても定額時間外賃金以外には時間外賃金を支払わないという趣旨の合意と解され,強行法規である労基法37条等の適用を潜脱する違法なものといえるものとしつつも,全部無効とするのではなく,本件職務手当は45時間分の通常残業の対価として合意されたと認めるのが相当であるとして,同時間を超えてされた残業代を認めた裁判例を紹介します。

本判決では,

 まず,労働者が署名押印した労働条件確認書が特に複雑なものではなく簡略なものであり,賃金に関しては基本給22万4800円及び職務手当(割増賃金)15万4400円を支払う旨が明確に記載されていることから,労働者が労働条件確認書に署名押印した時点で,従前の賃金を同書面記載の金額に減額することについて自由な意思で同意したものと認めたうえで,

 その中身たる「職務手当(割増賃金)」の部分についての会社側の「95時間の時間外労働に対応する時間外手当である」との主張について,①当該労働者の労働には深夜割増手当が発生するにもかかわらず,95時間分の時間外労働手当に対応する手当と認めることの困難性,②当該労働者が95時間以上の時間外労働を行った際に何ら清算も行われていないこと,から,
 本件職務手当が95時間分の時間外賃金として合意されたとは認めず,むしろ本件職務手当に関する合意は,時間外労働が何時間発生したとしても定額時間外賃金以外には時間外賃金を支払わないという趣旨で定額時間外賃金を受給する旨の合意であるとの認定をしました。

 そうであるならば,本件職務手当は,時間外労働手当としての実質を備えていないため(労働時間に対応していない),時間外手当の支払いとは認められず,前回ブログで紹介したとおり「2重負け」となりそうです。
 ところが,本裁判例では,本件職務手当を,労基法36条の上限として周知されている月45時間の通常の時間外労働の対価と認定をし,月45時間を超えてされた通常残業及び深夜残業に対してのみ,別途,就業規則や法令の定めに従って計算した時間外賃金が支払われなければならないとしました。

 判決文からは,なぜ全部無効ではないのかという点の理由は明確ではありませんが,おそらく,本件は,就業規則や賃金規程ではなく,当該労働者自身が署名捺印した労働条件確認書に本件職務手当が割増賃金の性質を有する記載があることから,当事者にとって合理的と考える時間に対応する時間外労働手当としての性質を認めたのだろうと思われます。

 そうすると,固定残業代に関する規程が,どこに記載があるのか(就業規則・賃金規程なのか,雇用契約書・雇用条件通知書等なのか)によって,請求しうる残業代が変わりうる可能性があることを示す裁判例であるともいえ,固定残業代に関する相談の際には,この点にも注意をして対応を要することとなりそうです。

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2020年9月15日 津島事務所所長 弁護士 加藤耕輔

 固定残業代(みなし残業代)特別ブログ第3回目となります。

 今回は,月額給与を①基本給(14万円)と②成果給(13万円)とに分け,成果給は時間外手当に相当する旨の給与規程も存在したなかで,「成果給の中には基本給に相当する部分が含まれており,そのすべてを時間外手当であると認めることはできない」として,時間外労働賃金の請求が認められた事例をご紹介します。

 第1回のブログでは,
・固定残業代(みなし残業代)がすべて無効となることはない
・ただし、時間外割増賃金に該当する部分が明確に区別されていること
・明確に区別されていると会社側が主張する時間外割増賃金部分が,【実質的にも時間外手当としての性質を有していること】が必要
 であることの説明をしました。

 本事案では,「月額基本給14万円、成果給13万円」とされ,賃金規程でも「成果給はすべて時間外手当である」旨が定められている為,形式的には,「時間外割増賃金に該当する部分が明確に区別されている」といえそうです。

 もっとも,判決では,その実態までを吟味し,
 ①時間外労働の1時間当たりの時間外手当が基本給の倍であり,あまりにも基本給とのバランスを欠いていること,
 ②成果給は前年の成績に応じて決定され,時間外労働時間数とは無関係に決められていること,
 ③基本給はほぼ最低賃金に合わせて設定されており,最低賃金を上回る部分はすべて時間外手当であるとしていること
 などから,会社が定めている賃金体系は不合理なものであり,「実質的には」成果給の中に基本給と時間外手当が混在しており「区別されていない」として,成果給は,割増賃金の支払いにはあたらず,また割増賃金計算の基礎賃金に含まれるとの判断をしました。

 会社としては,割増賃金としての支払いとして認められないばかりか,割増賃金算定の基礎賃金にも含まれてしまい,ある意味「2重負け」を被っており,大きなダメージを受けたことと思われます。
 実態判断については明確な基準が示されない為,会社側としては,どのような判断がなされうるのか各種リスクを想定して固定残業代(みなし残業代)を制定する必要があるでしょうし,労働者側としては,往々にして素朴な「おかしい」という感覚が,実態判断の結論と同じであることも多いことから,おかしいと感じた際には,まず相談をされるのが良いかと思います。

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時間外手当請求事件における労働時間の立証について(2)

2020年9月2日 名古屋新瑞橋事務所所長 弁護士 上禰幹也

名古屋新瑞橋事務所所長の弁護士の上禰幹也(じょうね みきや)です。

 さて、2020年4月6日の檀浦康仁弁護士のブログでは、「タイムカードによって労働時間を証明することができない」場合であっても、「会社のパソコンのログイン・ログアウトの時間や、事務所の入退出の記録、業務日報やタコグラフ」等の資料を用いて労働時間を立証して、残業代を請求することが可能な場合があることが紹介されています。

 もっとも、上記記事で紹介をされている「会社のパソコンのログイン等の時間や、事務所の入退出の記録、業務日報やタコグラフ」は、全て会社側が管理している情報であるところ、タイムカードもなく、会社側からこれらの情報の開示を受けることができないような場合は、労働時間の立証ができず、残業代の請求ができないという結論になるのでしょうか。

 そもそも労働基準法は、時間外労働について厳格な規制をとり、使用者である会社に、労働者の労働時間を管理する義務を課しており(労基法108条、同施行規則54条1項5号・6号)、厚生労働省も、使用者に対し、適正に労働時間の管理を行うためのシステムの整備、労働時間を適正に把握するための責任体制の明確化とチェック体制の整備等を求めています(「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」(平成15年5月23日付け基発0523004号))

 それにも関わらず、タイムカードやその他客観的な資料をもって、会社が労働時間を管理していない場合に、残業時間が分からないから残業代が請求できないという結論になるとすれば、労働時間の管理義務を履行していない会社が逆に得をするという結論になってしまい、不当と考えられます。
 過去の裁判例でも、「タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら使用者の責任によるものであって、これをもって労働者に不利益に扱うべきではないし、使用者自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している労働者が存在することを把握しながら、これを放置していたことがうかがわれることなどからすると、具体的な終業時刻や従事した勤務の内容が明らかではないことをもって、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではない」(大阪高裁平成17年12月1日判決、労判933号69頁、ゴムノイナキ事件)として、ある程度概括的に残業時間を認定した事案もあります。
 当職が担当した事案の中でも、タイムカードが存在せず、会社側から労働時間を裏付けるような情報の開示を得られなかった事案であっても、上述の通り労働時間を管理していなかったのは会社の責任であり、それにより労働者が不利益を被るべきでないと主張して、1日あたり何時間の残業というような概括的な推定計算を認めさせた事案や、終業後の恋人へのメールの時間といった個人的な資料から終業時間を推定することを認めさせた事案もあります。
 このように、タイムカードをはじめ労働時間を立証する客観的資料が存在しない場合であっても、残業代を請求できることもございますので、一度、弁護士に相談してみることをお勧めします。

固定残業代(みなし残業代)特別ブログ連載②「アクティリンク事件(東京地判平成24年8月28日労判1058号5頁)」

2020年8月17日 津島事務所所長 弁護士 加藤耕輔

 前回のブログでは,
・固定残業代(みなし残業代)がすべて無効となることはない
・ただし,時間外割増賃金に該当する部分が明確に区別されていること
・明確に区別されていると会社側が主張する時間外割増賃金部分が,【実質的にも時間外手当としての性質を有していること】が必要
 であることの説明をしました。

 今回からは,実質部分について,判断した裁判例を紹介していきます。

 まず,東京地判平成24年8月28日(事件番号平成23年(ワ)1954号・アクティリンク事件)をご紹介します。

 同事件では,原告からの時間外割増賃金請求に対して,会社側から,原告に毎月支給されていた【営業手当】について,「【営業手当】は会社の賃金規程において,月30時間分に相当する時間外割増賃金として支給されるものとされているから,定額割増賃金(みなし残業代)として支払われていたものである。」との主張がなされました。

 こうした会社主張に対して,裁判所は,
・賃金規程に会社の主張する記載があること
・賃金規程は従業員らに対する周知性は充足されていたこと
 については認めた一方で,

 定額残業代の支払が許されるためには,

①実質的に見て,当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること(条件1)は勿論,
②支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され,定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途清算(原文ママ)する旨の合意が存在するか,少なくともそうした取扱いが確率していること(条件2)が必要不可欠であるというべきである旨,判示し,

  本件における,
 ・営業手当は,顧客に面談する際にかかる諸経費をまかなう趣旨を含んでいたこと
 ・会社内に時間外労働に従事しているにもかかわらず,【営業手当】やこれと同趣旨の別の手当が支払われているわけでもないこと等の事実から,
  本件【営業手当】は,実質的な時間外労働の対価としての性格を有していると認めることはできないと判示し,定額残業代(みなし残業代)としての支払いであるとは認めませんでした。

  なお,上記の判断の帰結として,本件【営業手当】は,定額残業代にあたらない以上は,残業代算定の際の基礎賃金から除外できる労働基準法37条5項で及び労働基準法施行規則21条所定の各種手当にもあたらないため,会社のもともとの想定に反し,残業代算定の際の基礎賃金にも含まれることとなりました(その分,未払い残業代が当然に増えます)。

  地方裁判所における裁判例ではありますが,書籍にも引用されており,その実質判断の手法は実務上も大いに参考にされているところです。

  次回(9月中旬ころ)は,京都地判平成24年10月16日判決(トレーダー愛事件)について,検討紹介をする予定です。

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管理職の残業代~管理監督者とは~

2020年8月3日 名古屋丸の内本部事務所 弁護士 渡邊健司

一定の役職以上の中間管理職に残業代は支払わないという制度を採用している企業は少なくありません。当該企業の役職者自身,自分は残業代を請求できないと思い込んでいることが多いのですが,実は,中間管理職の場合,残業代を請求できることも多いのです。

労働基準法41条は,「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)について法定労働時間,休憩,休日に関する規定は適用されないと定められています。通常,この規定が,管理職の残業代を支払わない根拠とされています。
管理監督者とはどのような立場をいうのか,法律上は明確ではないのですが,単純な管理職という意味ではありません。
行政解釈では,管理監督者とは「部長,工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」で,実態に即して判断するものとされています。また,裁判例上は,管理監督者といえるかを判断する上で,経営方針の決定や人事についての権限を有しているか,出社退社時間等勤務時間について裁量があるか,残業代を支払わないことを正当化するだけの待遇(基本給,手当等)を受けているか等が考慮されています。
これらの観点から,課長級などの中間管理職の方で,管理監督者に該当する場合は多くはないと思われます。自分が管理職であるからといって残業代を請求できないとは限りませんので,一度弁護士に相談することをお勧めします。

管理監督者に該当せず,残業代を請求できる立場であっても,残業代を請求するためには時間外労働を行ったことを証明しなければなりません。しばしば,管理職であり残業代が出ないが故に,時間外労働の記録に無頓着となり,残業を行った証拠がないといったケースが見られます。労働時間管理は健康管理の観点からも重要ですので,自分の労働時間についてはしっかりと記録するようにしてください。

固定残業代(みなし残業代)特別ブログ連載の開始

2020年7月15日 津島事務所所長 弁護士 加藤耕輔

 皆様,こんにちは。弁護士法人愛知総合法律事務所の労働部弁護士の加藤耕輔です。
 弊所労働部では,昨今の残業代(時間外手当)の時効期間の延長により,よりその理解が必要となる,「固定残業代(みなし残業代)」についての連載ブログを始めることとしました。月に1回程度の更新を予定しております。

 そもそも,「固定残業代(みなし残業代)って何?」と思われる方も少なくないかもしれません。

 様々な形態があるので,一義的に定めることは難しいところですが,

 「残業により発生する時間外割増賃金(残業代)を,会社側で手当名目や基本給の一部として,予め定額に定めてしまい同手当等の支払いをもって残業代の支払いを行ったものとする制度」といえば,大方カバーできているかと思います。

 このような,固定残業代については,

 労働基準法上,会社側に義務付けられているのは,「時間外労働に対し一定額以上の割増賃金を支払うこと」であるので,「一定額に相当する割増賃金が支払われる限りは,労働基準法所定の計算方法をそのまま用いていなくても割増賃金不払いの法違反にはならない」とされています。
 もっとも,法所定の計算方法によらない場合には,割増賃金として法所定の額が支払われていることが明確にならないと,労働基準法所定の一定額以上の割増賃金が支払われているか判断できない為(判断できない場合には,支払いがされているとは認められません),就業規則や賃金規定や個別の雇用契約書等で,【割増賃金に相当する部分】と【それ以外の賃金部分】を明確に区別することを要するとされています。

 また,このように,【割増賃金に相当する部分】と【それ以外の賃金部分】が明確に区別されている場合でも,【割増賃金に相当する部分】が,実質的に時間外手当としての性質を有さない場合には,定額金の支払いをもって割増賃金の支払いがなされたとは認められないと各種裁判例において判断されています。

 次回のブログでは,こうした実質部分について審理判断した裁判例を,ご紹介していきたいと思います。

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労働時間該当性について

2020年7月1日 名古屋丸の内本部事務所 弁護士 木村環樹

 残業代を計算する上では、どこからどこまでが実労働時間であるかが問題となることがあります。
 一般的に、労働時間とは、始業時刻から就業時刻までの拘束時間から休憩時間を除いた実労働時間をいいます。労働時間に該当するかどうかは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に決まります。
 労働時間に該当するかが問題となり得るものとして、①始業時刻前の準備行為、②就業時刻後の後始末、③手待時間・仮眠時間、④移動時間、⑤研修等への参加などが挙げられます。
 ①・②については、例えば、使用者により義務付けられている作業着などの着用の時間、始業前・退社前点呼の時間などは労働時間に該当することになると考えられます。
 ③については、仮眠時間であっても、呼出があった場合などには直ちに対応することが義務付けられている場合には労働時間に該当することになると考えられます。
 ④については、通勤時間は労働時間に該当しないとされています。
 ⑤については、使用者の業務命令により参加した研修等の時間は労働時間に該当すると考えられます。
  残業代を計算する前提として、どのような作業・行為が労働時間に該当するか否かが重要となります。

新型コロナウイルスの影響~テレワークと残業代~

2020年6月17日 名古屋丸の内本部事務所 弁護士 渡邊健司

新型コロナウイルスが猛威をふるい,多くの企業では,通勤が自粛され在宅勤務,テレワークへの移行が進められました。緊急事態宣言が解除された後でもテレワークの有用性が見直され,積極的にテレワークを採用する企業も増えているようです。

さて,テレワークが進められた結果,テレワーク中の労働時間管理や残業代について新たな問題が生じています。オフィスでの業務では,タイムカード等により労働時間を管理しやすく,残業代も管理しやすかったともいえますが,テレワークの場合でも同様に残業代を請求できるのでしょうか?

テレワークの場合,通常よりも労働密度が低く(やはり自宅では集中しにくいという方も多いのではないでしょうか。),オフィスと比べて効率が悪く本来法定労働時間内にできるはずの仕事について余分に時間がかかってしまうこともあるかも知れません。このようなテレワークの特徴から,時間外労働をしても残業代を請求することに躊躇を覚えるかもしれません。

しかし,テレワークによって労働した場合であっても,法定労働時間(1日8時間,週40時間)を超えて労働をした場合には残業代(割増賃金)を請求することができます。

テレワーク中の実労働時間の把握の方法は会社によって様々です。会社のシステム等にアクセスしてタイムカードのように客観的に記録されている場合には問題となりませんが,会社によってはテレワーク中の労働時間の管理を行わず,所定労働時間労働した扱いとする例も見られます。このような取り扱いは違法であり,労働者は実際には労働をした場合には残業代を請求できますが,労働者においても実労働時間を立証できるよう,業務開始時間,終了時間をメモや写真等で記録しておく等の工夫が必要となります。

新型コロナウイルスの影響は企業においても甚大で倒産する企業も出てきています。他方,個々の労働者においても生活の糧を得る必要があり,時間外労働の正当な対価は請求しなければなりません。残業代請求についてお悩みがあれば,弁護士にご相談いただければと思います。

残業が深夜に及んだ場合の残業代(時間外手当)の計算方法

2020年6月8日 名古屋丸の内本部事務所 弁護士 岩田雅男

1 深夜手当とは

残業代とは,労働が,時間外に及んだ場合に割増して支払われる賃金のことです。
通常,残業代と聞くと,1日の残業時間が長時間にわたった場合や,1週間の残業時間が長時間にわたった場合を想像されるかもしれません。
しかし,労働基準法は,労働が深夜に及んだ場合にも割増した賃金の支払を命じています。
この場合の深夜とは,午後10時から午前5時までを指します。
これまで私が相談を受けたり,ご依頼をいただいたりしたケースでは,飲食店,運送業などで,深夜まで働かされていたにもかかわらず,一切深夜手当が支払われていないというケースがありました。
これらの業種の方々は,特にご自身にきちんと深夜手当も含めて支払がなされているか調べていただくことをおすすめいたします。

2 深夜の労働には25%以上の割増賃金が加算

深夜の労働は,労働者の健康を害することがあることから,その労働の負担は大きいです。
そこで,労働基準法は,負担の大きさを考慮して,使用者に割増された賃金を支払うことを命じています。
そして,その割増率は,25%以上とされています。
例えば,時給1000円と定められているのであれば,深夜の労働については,25%を加算して,労働者は,1250円の賃金の支払を受けることができます。

3 8時間以上かつ深夜の労働には二重で加算される

また,1日8時間以上の労働があったり,1週間に40時間以上の労働があったりした場合には,通常の時間外手当も支払われます。
通常の時間外労働と深夜の労働が重なった場合には,二重に割増された賃金が支払われます。
時間外労働の割増率は,25%ですから,深夜の割増率である25%を加算して,合計50%が加算されることになります。

4 自分に深夜手当が支払われているか確認するためには?

自分に深夜手当が支払われているかどうかを確認するためには,給与明細,就業規則,労働契約書(労働条件通知書)などを見る必要があります。
特に給与明細は,給与の計算根拠が示されることになりますので,深夜の労働時間がそもそも,把握されているのか,記載されているのかをご確認ください。

5 おわりに

深夜手当は,それ自体,使用者がきちんと支払う義務がありますし,深夜の労働は,健康を害する危険をはらんでいます。深夜手当が支払われていないということは,使用者が深夜の労働時間を把握していない,つまり労働者の健康状態をきちんと把握していないことにつながります。
深夜手当は,賃金だけの問題ではなく,皆さんの健康状態にかかわる問題につながりかねませんので,重要な賃金であるということをこの機会にご理解いただけると幸いです。

固定残業代が支払われている場合に,固定額以上の残業代の請求ができるか

2020年5月28日 名古屋丸の内本部事務所 弁護士 勝又敬介

 固定残業代とは、実際に残業があったかどうかにかかわらず、一定時間分の残業があったものとみなして、固定給として毎月支払われる残業代のことをいいます。

 固定残業代制度のメリットが、法的に見て妥当であるのかについては実のところ議論もありますが、一応企業の側には、毎月煩雑な残業時間の計算を行わないで済むこと、残業代の金額に差が無いのであれば、従業員が長時間労働を避けて業務を処理するようになり業務効率が上がる、などといったメリットがあるとされます。

 一方で、労働者側としても、毎月固定的に残業代が支払われるため、収入の安定に繋がること、効率的に業務をこなすことができれば、実際には長時間の労働をしなくとも残業代相当の給与を受け取ることができること、などのメリットがあるとされます。

 このような事情から、ある程度の長時間労働となることが想定される業種を中心に、導入している企業は多数あります。

 そもそも、労働基準法は、原則として1日8時間、週40時間を超える時間外労働や、午後10時から午前5時までの深夜労働、週1日の休日労働に対しては、割増賃金(具体的割増率は25%以上で、条件によって異なります)を支払うことを求めています(法37条1項)。

 この労働基準法の定めからすれば、固定残業代制度は一見するとこれになじまないようにも見えますが、実は固定残業代制度を明示で禁じるものではありません。

 学説上も、固定残業代制度自体が違法とされているものでは無く、どのような要件の下で制度自体が有効か、また制度が有効な場合に、個別の案件で違法な運用がされていないか、が検討の対象とされています。

 判例上も、固定残業代の制度自体が違法とされることはなく、一定の要件の下で適法とする流れが既に定着していると評価されています(国際自動車事件・最高裁平成29年2月28日他)。

 それでは、どのような要件の下で固定残業代制度は適法とされるのでしょうか。

 判例や学説により若干の差がありますが、主な要件として「固定残業代制度を採用することが労働契約の内容となっていること」「通常の労働時間に対する賃金部分と固定残業部分が明確に区別されていること」が要件とされています。

 このうち、労働契約の内容となっている、という部分は、企業と労働者の個別の合意や、就業規則での周知が必要となります。

 また、通常の賃金と固定残業部分の区別ですが、これについては企業と労働者の間で取り交わされた契約書や就業規則、給与明細等で判別できる形となっているかが問題となります。

 これらの要件に問題が無ければ、固定残業代制度自体は適法といえますが、それでは固定残業代制度があれば、どれだけ長時間労働をしても、残業代は固定残業代以上に支払われないのでしょうか。

 これについては、学説上も判例上も、固定残業代制度があっても、みなし残業時間を超えて働いていれば、別途残業代を支払う義務が企業側に生じるとされています。もっとも企業側では誤解している、あるいは誤解している風を装って残業代を支払おうとしない企業もあると思われるので、注意が必要です。

 これに対して、みなし残業時間に満たない時間しか残業していなかった場合でも、その分の残業代を返還請求は認められません。

 このため、固定残業代制度は、正しく運用されている限りは、企業側からして残業代の節約になる制度では無いとされています。

 実際に、固定残業代が本来支払われるべき残業代と比較して過小でないか、またその金額がいくらになるか、という点については、労働時間の立証の問題(詳しくは弊所の4月6日付のブログをご覧下さい)や、残業代の計算方法、残業代の時効(詳しくは弊所の2月20日付のブログをご覧下さい)等の問題も絡む複雑な問題となります。

 適正な残業代が支払われているか、疑問になった方は、よろしければ一度弁護士にご相談下さい。